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「大人」になりたくない人の雑記

反撃能力(敵基地攻撃能力)とは何なのか

先日、北朝鮮がミサイルを相次いで発射し、中には日本の排他的経済水域内に落下し、日本国民にも被害が及ぶ可能性がありました。日本政府はいつも通り「言葉」で抗議をしていますが、そろそろやめませんか。

反撃能力(敵基地攻撃能力)って何なの?

日本が攻撃を受けた場合、従来の日本は日本国内で「自衛」をすることしかできず、敵国に対して攻撃ができませんでした。しかし、反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有することによって、日本が攻撃を受けた場合は攻撃をしてきた国にある軍事目標に対して攻撃をすることができるようになります。

これに対して「敵国に対して攻撃をするのは『自衛』の域を超えている」「憲法違反だ」などの批判があったため、当初政府は「敵基地攻撃能力」と言っていましたが「反撃能力」と言葉を変えました。安倍元首相の国葬を「国葬儀」と言ったり、政府は言葉あそびがお好きなようです。私はどうでもいいと思っているのですが、反撃能力の方が文字数が少なくて入力が楽なので、ここから先はそちらを使います。決して自民党を擁護しているわけではないのでそこはご承知おきを。

反撃能力があるのとないのとでは何が違う?

これまで日本は反撃能力を保有していませんでしたが、戦後一応は平和に暮らすことができていました。しかし昨今の世界情勢を見てみると、北朝鮮による相次ぐミサイルの発射、ロシアによるウクライナ侵攻、北海道侵攻リスク、中国による台湾侵攻リスク、韓国による火器管制レーダー照射など、日本周辺だけでもこれほど緊張が高まっています。

そして北朝鮮の金与正氏は「太平洋を我々の射撃場とするかは米軍の行動次第だ」と発言していますし、日本の排他的経済水域内にミサイルが着弾しています。北朝鮮だけでなく中国も台湾周辺で行った大規模軍事演習で発射したミサイルが同じく日本の排他的経済水域内に着弾しています。もし日本人が着弾したミサイルやその破片によって負傷または死亡した場合、日本はいつもの抗議、遺憾ですと口だけで済ませるのでしょうか。

反撃能力がある場合は日本が攻撃を受けた場合に、やり返すことができるというのがまず一つ。そうしてもう一つが日本には憲法第九条があり、日本から国権の発動たる戦争を起こしたり、武力を用いて威嚇・行使することができません。そのため、他国からナメられているのです。「ミサイルを撃ってもどうせ奴らは『遺憾』とか抗議しか言えない。やり返せないだろう」とね。だから日本が「日本に攻撃してきたら反撃するぞ」と明確に宣言すれば一定の抑止力になるというのが二つ目の理由。その抑止力が相手に効くか否かは置いておいて、少なくとも「これまでのやられてるだけの日本ではないぞ」と、日本が変わったということをアピールすることができます。

反撃能力は「自衛」の域を超えているのか

さて問題なのは反撃能力が自衛の域を超えているのか。結論から言うと私は基本的には「超えていない」と言えますが、使うタイミングによっては「超える」とも言えると思います。

曖昧な結論ではありますが、「日本が攻撃を受けた場合に攻撃する」のであれば、自衛の域は超えておらず「日本が攻撃を受けていないにも関わらず攻撃する」のであれば、それは自衛の域を超えていると思います。そもそも「反撃」であるのだから、攻撃を受けていないにも関わらず敵へ攻撃すれば、それは単なる攻撃であって自衛どころか憲法や国連憲章をはじめとする国際条約に違反することは明白で、自殺行為です。ただし、日本政府が説明しているように相手が攻撃に着手した段階でも反撃を行うことができます。これについては後述します。

反撃能力は憲法違反なのか

反撃能力とはいえ、敵基地を攻撃するのでやはり戦争放棄をうたった日本国憲法に違反しているのではないかとの声もあります。

しかし、反撃能力は自衛権の範囲内にあり、国連憲章でも認められている正当な権利です。

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

出典:日本国憲法 | e-Gov法令検索

と日本国憲法第九条にはあります。このことから分かりますが、自衛権は放棄していないほか、日本が攻撃を受けたことに対して反撃をすることは国権の発動たる戦争ではないと僕は思います。憲法学者でもなんでもないので、一個人の私見ですが。

そもそも日本国憲法の前文には以下が記されています。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。

出典:日本国憲法 | e-Gov法令検索

とあります。日本国民の安全と生存を保持するために反撃能力を保有することは何ら問題ないと思います。攻撃を受けて国民の安全と生存が保持できなくなれば、それこそが憲法違反。

問題は「着手」の判断

冒頭でも触れたとおり、日本政府は相手が日本への武力攻撃に着手した段階で反撃を行うことができると説明しています。問題なのはこの着手の判断です。

上述のように、北朝鮮や中国が発射したミサイルが日本の排他的経済水域内に落下したり、列島の上空を通過したりといったことはありますが、日本が何か被害を受けたかというとそうではありません。排他的経済水域は確かに日本が優先して漁業などを行える場ですが、日本の領域ではありません。「排他的経済水域内に落下したから日本への攻撃だ!」として反撃をすることはできないと思います。日本の領海ではないので。もちろん日本漁船などに被害が出たら反撃はできると思いますが。

北朝鮮がミサイルを発射する兆候があったとしても、それが実際に日本の領域内に着弾するものなのか、発射してからでないと日本への攻撃なのかというのは分からないと思います。発射してからはミサイルの軌道などでわかるとは思いますが。

なので、北朝鮮がミサイルを発射し日本が北朝鮮に対して反撃を行った後に、日本への攻撃ではなかったと分かった場合、国際社会から「日本が北朝鮮へ攻撃をした」と捉えられ批判を受けることは確実ですし、それによって日本が以後反撃能力の使用に躊躇するということになっては本末転倒です。

相手が日本への武力攻撃に着手した段階で反撃を行うことができるというのは、日本に被害が出る前に攻撃を阻止できるという反面、こうしたデメリットがあるのも事実。中国や北朝鮮といった国なら、ワナを仕掛ける(意図的に日本に反撃能力を行使させる)可能性もあります。

また、と日本に被害が出ていないのに時の政府が反撃能力を行使するということになったら、戦前の時代に逆戻りです。

着手の判断が反撃能力においては慎重かつ迅速に重要になってきます。場合によっては日本の国家存亡にかかわる重大な判断。果たして日本の政治家や自衛隊はその判断を行うことができるのか...。

日本の反撃能力保有に反発する国々

日本の反撃能力保有に反発する国々があります。いつものことなのでもう何とも思いませんが、中国、北朝鮮。反発はしないまでも同意が必要だというのが韓国です。

中国は「中国の脅威を誇張して自らの軍拡の言い訳とするたくらみは思い通りにならない」*1、「平和憲法と専守防衛に反し、アジア太平洋地域の平和と安定を深刻に脅かす」*2と反発。北朝鮮は「正当化できず容認できない」、「日本の野望実現の意図をどれほど不快に思っているかを、実際の行動で引き続き示す」、「他国の領域を侵すための先制攻撃能力だ。国際平和への深刻な挑戦だ」*3と反発。韓国は「専守防衛の概念を変更せず厳格な要件のなかで行使が可能とする内容が盛り込まれたことに注目している」としながらも「朝鮮半島を対象にした反撃能力の行使のように朝鮮半島の安保とわれわれの国益に重大な影響を与える事案については事前にわれわれとの緊密な協議と同意が必ず必要だ」*4と発言しています。

日本は「専守防衛」という考え方は変えていません。反撃能力はあくまでも「日本を攻撃したら反撃をする」というものであり、日本を攻撃しない限り日本から攻撃をすることはありません。反発している国々は日本を攻撃する気でもあるのでしょうか。まあ常々ミサイルを発射したり、日本の漁船を大型船で執拗に追い掛け回すような野蛮な国家ですから、そうなんでしょうね。

韓国に関しては珍しく反発はせず、理解を示しています。「われわれの領域に対する外国の軍事的な介入に関しては当然われわれ側との事前協議と同意が必要だ」というのは恐らく北朝鮮を念頭にした発言です。

朝鮮半島は複雑で、北朝鮮と韓国はお互い朝鮮半島はすべて我々のものだと主張しているのです*5。そのため、北朝鮮が仮に日本を攻撃し日本が北朝鮮に反撃能力を行使した場合、韓国は「いやいや、北朝鮮も韓国の領土だから反撃するんだったら韓国側に同意得てからにしてよ」というのが韓国の言いたいことだと思います。領土問題は日本も現在進行形で経験していることなので韓国の気持ちも分かりますが、日本が攻撃を受けている有事の際にいちいち同意を得ている暇があるか。

というか韓国のこの発言だと北朝鮮が日本を攻撃する=韓国の領土から日本に攻撃をしたともなるので、だったら北朝鮮が日本を攻撃する前に、韓国側が北朝鮮に自制するよう説得する必要がありますけど...できます?できないから今のようにミサイルを発射し、核実験も秒読みの段階に入っているんですよね。


しかし、相手が攻撃に着手したかをどこで誰が判断するか、そもそも何をもって着手をしたと判断するのかといった問題点があるのも事実です。政府は判断基準をはっきりとさせて、反撃能力を悪用しないようにすべきです。

反撃能力(敵基地攻撃能力)とは何なのか